「人工知能は人間を超えるか」(松尾豊著・角川選書)に続いて、「よくわかる人工知能」を読んでみました。UEIの清水亮さんによる日本の最先端研究者との対談集です。2016年の現在進行系の業界の空気感がものすごくよく分かります。
読んだ中で一番衝撃的だったのは慶応の前野隆司教授が唱える「受動意識仮説」。
これはどういう事かというと、人間の意識というのは実は後付けで、既に起きた現象を後からつじつま合わせで説明しているに過ぎないというものです。
例えば、手を動かそうとした時、動かそうと思っている0.35秒前に筋肉に指示が出ているのだそうです。自分が指示して手が動いているように思うけど、実際は、意識するより先に手の筋肉が動いていて、それを「自分が指示して動いた」と後から認識して思い込んでいるに過ぎないというものです。
では意識とは何かというと、膨大な情報の中から取捨選択して記憶するための一種の情報圧縮過程なのではないかと。情報の山の中からエッセンスを抜き出すみたいなものらしく、それを脳の各部分が分散的に行っているというのです。さすがに膨大な生の情報は、そのままでは記憶できないですからね。
「意識とは何か」という事がおぼろげながらも分かってきたという事は、意識を人工的に作り出す事ができるはずで、本当に人間の脳のような物が作れる可能性が出てきた、という事です。
まずインテリジェント・オブ・シングス(intelligent of things)という全てのモノが知能を持ち、自律的に行動していく未来が10年後ぐらいに出現して、その先に人工知能が人間の知能を超えるシンギュラリティーがやってくる。しかもそんな遠い話じゃなくて数十年後です。
そうなると、最近よく言われるように人間の存在意義が問われる訳です。人工知能が人間を支配したり殺したりするんじゃないか、という事が良く議論されています。
この本を読んで僕が感じたのは、人間の脳というのは数十億年かけて進化してきただけあって、実に良く出来ている。ただ、人間の脳を真似ている範囲では、すごく頭の良い人間、例えばアインシュタインのような天才的な人工知能が生まれるにすぎなくて、その範囲では特にすごい何かが起きるような事はなさそうだという事です。
例えば Googleには物凄い天才が集まっているけれども、人類を恐怖に陥れたりはしないし、怯える必要もないのと一緒なのかなと。まぁGoogleの出現で失業しちゃう人は出ているので、その程度の事はある訳ですが。
それよりも、魚に足がついて陸上を歩き回ったり、羽が生えて空を飛んだりしたように、脳を超える何かがそのうちできて、人間、もしくは機械がより高い次元の生命体になって宇宙に進出し、宇宙をうめつくす可能性の方が高い気がするし、実際そういう未来がこの本の中で語られています。まるで生物が海から出て陸を覆い尽くしたように。
個人的に子供の頃からウオッチしていたコンピュータの世界も段々進歩が遅くなってつまらなくなってきたなと思っていたのですが、新たな興味対象が出来て良かったなぁと。しかもそれが実世界と直接結びついてくるので、これは面白そうです。
趣味でウオッチする範囲にするのか、仕事として取り組むのかは、まだよく分からないですが。
あと、脳の視床下部にある腹側被蓋野ってところを刺激すると、「必ず」目の前にいる人を好きになるらしいので、誰か一発で腹側被蓋野を刺激できるボタンを作って欲しいです。