渋谷にあるイメージフォーラムシアターに行き、竹村望監督の「同じ月を見つめて」という映画を観た。イメージフォーラム・フェスティバル2019の東アジア・エクスペリメンタル・コンペティションにノミネートされた作品である。
竹村望監督は、僕が運営するシェアハウスMAZARIBAのメンバー(住人)で、こちのインタビュー記事にある通り、現在はTV番組制作会社でドキュメンタリー番組のADをやっています。
この「同じ月を見つめて」という映画は、竹村監督自身が2017年から2018年にかけて、ある養鶏場で外国人技能実習生と生活を共にし、仕事をした経験を基にして制作したドキュメンタリー作品。養鶏場で起こった出来事や帰国した元実習生の姿を追う中で、割り切れない問題や、自身の狡猾さへの気づきなど複合的な葛藤を織り交ぜながら見つめていくというストーリーで、ミャンマーと日本を往復して作った54分もの大作である。
この作品の中では、養鶏場で過ごすうちに、当初この作品を作る予定が無かった(と思われる)竹村監督が問題意識に目覚め、映画を作り始める様子が素直に映し出されている。と書くと簡単なのだけど、商業映画やテレビドキュメンタリーだと、このような作品は成立しない。なぜなら最初の部分の映像が無いからである。
しかし竹村監督は、写真に自らナレーションをあて、さらには自分でモノローグもあてるという大胆な手法でこれを乗り越えた。斬新である。
同じ様に、当初は養鶏場の経営者などを勝手に盗撮していたのだが、映画が出来上がってから当人に見せ許可を取る、という大胆な行動で制作倫理の問題を乗り越えている。当人に(あまり)歓迎されないものを見せ、後から許可を取るという手法など、商業映像では考えられない事である。斬新である。
そもそも僕が映画学校に通っていた頃は、イメージフォーラムで自分の作品が上映される事など、月よりも遠い出来事のように感じていた。そして未だ僕の作品が上映された事はない。身近にいる人間の中では、なかなかの偉業である。
さらに竹村監督は、自分の頭で考え抜き、最初の映像がない、被写体の許可を取っていない、というハンデを乗り越え、作品を完成させている。有る種のアマチュアリズムが、1つの壁を乗り越えた瞬間である。
ぜひこの精神を忘れないで、商業作品の世界でも活躍して欲しい。